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店頭のワープロのように、好き勝手書いて好き勝手放置しておく気楽な場。 踊り子さんには手を触れないようお願いします
【スフレ妄想】翡翠の守護者
2007年09月06日(木) 17:32
 翡翠は硬度としては低いものの、結晶の性質的に「割れにくい」のだそうで。




 男は語った。
 その本来の使命は「それ」を守護することであり、次の世に受け継がせる事にある、と。
 つまり私に仕えるというのは、男にとってはオマケ以外のなにものでもないの事になる。

「ならば、これを売り払えばお前はこの家からいなくなってしまうのね?」
「まあ……結論を言えばそうなりましょうな」
 不可思議に訛った発音で言葉を紡ぎながら、男は言ってのけた。
「なれど姫様――失礼ながら、わしの目には貴女様にそのような無体をする心積もりは無いように思えて仕方がない」
「何故?」
 出来る限り冷たい表情をして、私は男を睨んだ。――祖母や母が、父のいない間にやってくる品のない商人たちにそうしていたように。
 けれどそれを見て男の浮かべたそれは、商人たちの下卑たものとは似付かぬやわらかなものだった。
「貴女様はこの石に、見惚れておられた」
「いけないの? 綺麗なものは誰でも皆、好きでしょう。だから間違えたのよ」

 ましてそれは宝飾品の――髪飾りの一部に組み込まれていた。
 一目見て、幾人もの人の手を経てきてなお、輝きを失わないほどに大切にされたと判った。そこに誂えたように填め込まれた碧の美しさは深い湖のそれのようですらあって。
 綺麗で美しくて、手に入れたくて。けれど――私の髪の上では、あれは映えないと自分で判っていた。少なくとも前の持ち主のように、長く黒い髪でなければならないと。
 手に入れたとしても絶対に使わない、仕舞われるだけのものに、ただ綺麗というだけでどうして触れる事が出来るだろう。
 それは、我儘だ。
 得るための力もないのに、あれやこれやと欲しがる子供の行動だ。
 判っていたのに、父はそれを叶えてしまったのだ。髪に飾ることなんて出来ないのに。
「今からでも遅くはないわ。――私はお前には相応しくないの」
 相応しくない。元々が私のものではない。似合わない。私のものにはならない筈のもの。
 なら、そんなものはいらないのだ――どうしようと私は変われない。相応しくなれない。相応しくないものなら、欲しがるなんて意味がない。
 だから帰れと言おうと思った。
 お前は必要がないのだと。必要などと言ってはいけないと。
 ―――そう言おうと思ったのに。

「『生きる者は必ず死す、形在るものは必ず砕けん』」

 厳かな其れは誓言のようだった。事実、古い戒めの言葉であると知ったのは随分と後のことだ。当時は判らず、けれど響きの重さに気圧されて男を見る。

「わしの故郷では、偉い坊様がそう申します。なれど、人が命得て生まれ、ものが削り象り磨かれる事に意味がないなどとは、誰も一言も申しませぬ。なればこそ形があるのは、命があるのは、それに心惹かれるのは――それにはそれで意味がある」

 私の目の前で、細い目が更に細められ伏せられる。
 そうして髪飾りを握ったままの私の手を、そっと包み込んで男は言った。

「嬢は、心惹かれてこれを得られた。
 なれば、心離れるまでその心をお守りするのがわしの役目に御座りましょう―――」


 男は。
 それ以来私のそばを離れることがないのだ。
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