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店頭のワープロのように、好き勝手書いて好き勝手放置しておく気楽な場。 踊り子さんには手を触れないようお願いします
【SS】きよらなる
2008年01月09日(水) 00:07
 伝奇ものっぽいようなそうでもないような。
 珍しく年だの身長だのに差があんまりない感じで。



 バカと煙は高い所に上りたがる、という。
 そのせいなのか、彼女との待ち合わせ場所は、大体が高い所だった。今日も同じ。

《放課後にいつもの上で》

 ―――上、などと書く場所はひとつしかない。
 人波のようやく途絶えた廊下を突っ切り、リノリウムの階段を駆け足で登る。視線の先にあるのは無機質な金属扉。鍵は、かかっていない。
 腹が立っていたので、蹴り開けた。

「清香!」

 呼び声に、フェンス側に佇んでいた人影が振り向く。
 艶やかな背の半ばまであるポニーテールを纏めるのは、紺のリボン。それが、吹き過ぎた晩秋の風にふわりと揺れた。
 爪先から頭の天辺、手足、髪の一筋までもが綺麗に整った、人形のような顔立ちと白い肌。見慣れていても息を飲ませるようなそれが、こちらを認め。

「賢、おっそーい」

 その一言でようやく、呪縛が解けた。


 馬渡清香(まとう・きよか)という名前のこの少女と、彼――椎堂賢(しどうまさる)が出会ったのは、およそ十年近い昔の事になる。
 世間的に言えば「腐れ縁」の「幼馴染み」だ。その自覚は互いに変わらない。
 しかしこうして放課後に待ち合わせるようになったのは数年前――「魔剣」と呼ばれる人の手には余る一対のなにものかを共有する仲となってからのことだった。
 待ち合わせそれ自体には、特に意味はない。強いて言えば鍛錬――「魔剣」を使いこなす為の修行に行く為だが、それとて毎日続けなければいけないという理由はないのだ。しかし気付けば清香はこちらを呼び出し、自分はそれに応じて校内を探し回る。
 お陰で、何故だか周囲の人間にはセット扱いされている。そんなことはない、と二人揃って否定しているにもかかわらず、だ。しかも何を勘違いしているのか、清香にコイコガレている連中に逆恨みまでされる始末である。
(大体、こいつの何処がいいんだかなあ)
 一見すると美少女だ。それは認めよう。
 しかし話せば五分で判る。口を開けば出てくるのは傍若無人なお言葉だ。大雑把で忘れっぽく、おまけにコロコロ気が変わる。猫だってこんなに気紛れじゃないだろう。かといって放置すると異様に拗ねる。
 正直、どうしろと言いたい。まあ、どうやったって、相手は気に食わないのだろうが。
 溜息を吐いて諸悪の権現サマを見れば、彼女は悪戯っ子のようにこちらを見ていた。
「申し開きがあれば聞くよ?」
「ぬかせ。毎度毎度、適当なメールで呼びつけやがって。どんだけ苦労したかと思ってんだ」
「とりあえず息を切らせる程度には苦労したのは判るよ」
「殴んぞコラ」
 睨み付けても清香に堪えた様子はない。気楽そうにあははと笑って、――それから可愛らしく首を傾げてみせる。
「それにしてもホントに遅かったよね。呼び出されてた?」
「俺ァお前ほど職員室の世話ンなってねえよ」
「じゃあ何だったの」
 問い掛けてくる声はごく自然だ。そのせいで――うっかり口が滑った。
「……数学の澤サンにヤボ用」
「やっぱり呼び出しじゃない」
「違うっつーてるんだろーが……」
 本気で怒鳴ろうとしたその時だ。
 背後――重い防火扉が、ガン、ガン、と無遠慮に殴りつけられた。二人分の視線が集中する中、軋みを上げて扉が開き。

「姉さん。マサ」

 ―――隙間からするりと入り込んできたのは、おっとりとした顔立ちの少年だ。
 清香とよく似てはいるが、髪は短く、何より清香ほど整いすぎてはいない。やや中性的な印象だが、女性と見間違うには化粧と衣装が必要な――そんな雰囲気。
「洋輔」
 賢が声を掛けると、少年――馬渡洋輔は鷹揚に頷いて見せた。そうして双子の姉――清香に向けて、口を開く。
「来たよ、姉さん」
「あれ? どうかしたっけ」
「どうかしたって……呼び出したの姉さんだったと思うけど?」
 呆れ混じりの弟の声にも、しかしこの傍若無人少女は顔色一つ変えない。
「そだっけ?」
「そうだよ。大体高校生にもなって「相談あり放課後基地に集合」なんて変なメール、姉さんくらいしか出さないってば。――マサもそう思うでしょ」
「否定はしねえ」
「あー。賢までそういうことをっ。酷いっ」
「お前が一番酷いわ。大体なあ―――」
 言い募ろうとする瞬間、賢の目の前にやはり色白な手がすっと差し入れられる。
「夫婦喧嘩は後でいくらでも。――姉さん、僕、委員会あるから用事なら早くして」
 誰が夫婦喧嘩か――と口を挟もうとして賢はすんでのところで飲み込んだ。些末な事を一々反論していては本当に話が進まない。
 代わって清香を見れば、彼女はどこか恥ずかしそうにもじもじと手を擦り合わせた。
「そんな、えーとその。特に大した用じゃないんだけど。今日道場の前にさ、ちょっとだけ未来の為に投資して欲しいなって。それで、相談」
「また買い食いかよ」
「失礼な。研究って言ってよ」
 むう、と口を尖らせるその表情は、しかし真剣そのものだ。
 半年年長の彼女が菓子職人になりたい、と言い出したのは、まだ魔剣の事を知らなかった幼い頃のことだ。当初は子供の他愛もない夢でしかなかったそれが、いつの間にか周囲が認める本格的な将来の進路として周知されるようになってから、随分と経つ。今では学内の誰もが知る菓子作りの名人で、自作レシピも四桁に迫る勢いだ。
 魔剣の主として一度事件が起こればどんな状況を差し置いても駆り出されるような状況で、そこまでの情熱を傾け続けられるというのは一種の才能なのだろうと思う。
(少なくとも、俺にゃ出来ねえよな……)
 対となる魔を身に宿しながら――年齢さえも都合半年しか違わないのに、どうしてここまで違うのか。
 判らない、と思う。
「今日は何処。駅前のクレープ屋台は割引終わってる筈だけど」
「うん。だから今日は趣向を変えて千石屋とかどうかなって」
「ああ、そういえば万(ヨロズ)パフェの変更日って今日だっけ」
 千石屋は、市の住宅街に店を構える老舗の和菓子屋だ。売るだけではなく「千石カフェー」と称したお茶屋も併設し、茶屋のみで出すメニューも取りそろえている。
 万パフェはそんな千石屋カフェーの中でも、一二を争う人気のメニューだった。年に四度、季節のフルーツをあしらって登場するそれは、年によってその盛りつけ内容がガラリと変わる。
 毎年毎期、旬のフルーツをいかに使うかが求められるだけに、菓子職人にとっては、アコガレの存在である――らしい。少なくとも清香にとっては変更初日に駆けつけるだけの価値があることは確かだ。
「あと、今回は変わり寒天に新作が出るらしいのよー! そっちは自分で買うからさ、洋にはパフェの分だけ、肩代わりして欲しいなあーって」
「…………お前、それも食うの?」
「もち!」
「太るぞ」
「大丈夫よ。道場行って動いたら、それくらいあっさり行くってば」
「姉さん無駄に動くしね」
「無駄じゃないわよ。いつでも全力なの!」

 薄い胸を張ろうとするその様子を、いつものように横目で見る――そんな時だ。尻ポケットに突っ込んでいた携帯電話が、ぶるぶると震え始めたのは。
 何の気なしに取り出して、気付く。このシグナルパターンは―――

「ちょい静かにしとけ―――はい。椎堂です」

(誰からかな)
(師範代――じゃない? 今日の道場お休みとか)
 声を潜め、おそるおそる尋ねる馬渡姉弟に首だけを振って応じる。――そんな訳あるか。
(「仕事」だとよ)
 唇だけを動かして伝えれば、清香は目に見えてガックリと頭を落とす。
 ほんの少しだけ、小気味よかった。



 ……何故か弟の方の声が某福山氏の声で聞こえている罠。
 多分つづきません。
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