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店頭のワープロのように、好き勝手書いて好き勝手放置しておく気楽な場。 踊り子さんには手を触れないようお願いします
【突発】二月の風景
2008年02月15日(金) 00:33
「僕には愛がないのでチョコレートは送りません」
 というメッセでの(※注・自分での)発言から思いついたネタ。

 本編ではなく番外編のノリで書いてます。


 真籐洋輔は、冬空の下で困ったように目を伏せた。
 目の前には顔を真っ赤にした妙齢の女性がいる。うつむいてるせいで顔は見えないが、綺麗に手入れされた髪は長く、パーマが当てられてか、コートの背中へゆるやかなウェーブを描いていた。
 時刻は日暮前。どちらも、買い物帰り。もう少しで自宅代わりにしている友人の事務所で。
 ……髪を揺らす風に白いものが混ざる。
 そういえば、もうそんな時期だったのだ。
 もっと気をつければよかったと、今更のように思う。思えてならない。

 声を掛けられたのは突然だが、顔の見覚えはあった。
 一年ほど前から通うようになった、近所のコーヒー店。そこの女性店員だ。まだ若い、高校生にも見える顔立ちなのに趣味が昂じて店を始めたというマスターと同じ味を入れられる、貴重な一人だと話していたのを思い出す。本当に、ほっとするような味だった。濃く、苦く、けれどほんの少し昔を思い出せるほど甘く。それは彼のような存在には、とても魅力的なもので。だからついつい、通い詰めて。
 ……その結果がこれだ。
 もう、あの店には行けないな、とぼんやりと思いながら小さく溜息を吐く。広がった吐息がふわりと――煙のように解けて、消える。
「お気持ちは、ありがたいと思います」
 目を伏せながら、機械のように言葉を紡ぐ。差し出している腕が、ぴくりと震える。
「でも、残念ですけれど、受け取れません」
 言葉を切って。
 次の瞬間に何故、と問われない事に安堵しながら、落胆する。けれど、それすら相手にしてみれば、不快だろう。
「わざわざありがとございました。――すみません」
 これで。
 いっそ殴ってでもくれたら、君のことも覚えていられるんだろうな、なんて。


 事務所の歪んだ看板を横目に扉を開けると、ふんわりと甘い匂いが鼻孔を擽った。
 首を傾げながら、歩みを進めるといつものように友人はだらしなくソファーに倒れていた。声は台所から聞こえる。しかも複数。声からするとバイトの女性と、同じくバイトの青年。そして、彼が養っている少女だろうと見当も付いたが――
 視線を向けると、面倒くさそうな表情が更に憂鬱そうに歪む。
「……大石ンとこのチビ居るだろ」
「ああ、佐和子ちゃん」
「あれが、隣のナントカいうねーちゃんから変な知識仕入れたらしくてな。例の会計の嬢ちゃんと示し合わせて押しかけてきやがった。今、鍋一杯にチョコレート融かしてる」
「へえ。チョコフォンデュか。…でもよくそんなにチョコが買えたね」
「パチンコで大石が当てたんだと。……野郎、こういう時に限って空気が読めやしねえんだ」
 心底呪わしげに呟いて鼻を押さえる姿は滑稽を通り越して情けなかった。いや、普段から情けないから普段の2割り増しと言うべきなのか―――
 ……そんなことを思いながら、ふと思い出す。どうして、こんなにチョコレートに対して嫌そうな顔をするのか。

「最初は、そういえばポッキーだったんだよね」
 口に上った言葉に、友人の眉間の皺が更に増えた。
「チョコで鼻血が出たからって次の年はプリッツになって、プリッツじゃ食べ応えがないからって煎餅になって。煎餅の次は――たしか肉まんだっけ」
「そうだったな。なんかラッピングしてたけど色気もクソもなかった」
「誰だったっけ。あの頃だと緒田さんかな――もうそうなると餌付けみたいだってからかわれてから、手作りのお菓子に戻ったんだよね」
「いいや」
 ゆっくりと身体を起こせば、ぎしりとスプリングが揺れる。
「その前に一度だけ、なんか肉入りのパン押し付けてきたぜ。ケーキになったのはそれからだな。……さんざん味見させられたから、覚えてる」
 誰が、とは言わない。
 そんなことをする相手は、彼と自分の間ではたったひとりで十分だ。
 ほんの十五年前まで側にいた、たったひとり。見栄の為にか、毎年毎年山ほどチョコレート菓子を作るくせに、自分と友人にだけはそれを絶対に渡そうとしなかった少女。
 ひどく強引で、けれどどこか臆病だった、双子の姉。

 ―――今年はちゃんと持って行くわよ。ちゃんと用意してあるんだから。
 ―――だから二人とも、ありがたく食べるのよ。先に他の食べてたら、許さないからね。

 今は何処に居るかも判らない姉の、その言葉をこの友人はずっとずっと守っている。彼女だけを待ち続けている。
 それを横で見続けている自分が――強いる原因になった自分が、どうしてそれを見ぬ振りなど出来るだろう。誰かの気持ちなど、受け取れるだろう。
 歪な自分には、あんな風に誰かを思うことなど一生できないに違いないというのに。


 古い思い出に浸りかけた心を引き戻したのは、軋みを含んだドアの開閉音だった。
 視線を向ければ、既に友人はコートに身を包んでいた。財布と、携帯電話と――傍らの口が開いた鞄からはいつものケースが半分見えている。

「何処行く気?」
「何処でも。……新都じゃねえなら何でも」
「そうだね」
 こういった――心の傷がささくれ立った日には、賑やかな雑踏さえも疎ましい。
「二分待ってよ。支度してくる」
「チビどもが騒ぐぞ」
「その辺りは任せてよ。――車の方だけよろしく」
「仕方ねえな」
 呆れたように友人が返す。その遣り取りすら、昔のそれのようだと思って――そうして、気付くのだ。ほんの数分前だというのに、顔を合わせていた彼女の表情を忘れている自分に。

(ほら、やっぱりだ)

 ちょうど傷のようなものだ。
 この痛みが強すぎるから、他の誰かなんてちっとも意識には残らない。なんて酷い話。

 だから甘い話なんて、聞きたくない。
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