FC2ブログ
店頭のワープロのように、好き勝手書いて好き勝手放置しておく気楽な場。 踊り子さんには手を触れないようお願いします
【SS】屠殺者の庭
2008年04月20日(日) 19:57
 畜生とは獣のこと。獣とはヒトの条理の通じぬ何か。屠られるもの。
 故に。
 我等は、トサツの民なり。


 *これ以降の文章には、一部グロテスクな表現、およびそれを想起させる描写が含まれます。苦手な方はなるべく、閲覧をお控えくださいますようお願い申し上げます。
 *上記項を無視しての閲覧したことによって生じたいかなる社会的・経済的・身体的・精神的損害に対しても作者は一切の責任を負いかねます


屠殺 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

屠殺(とさつ)ないし屠畜(とちく)とは、家畜等の動物を殺すことである。「屠」は「ほふる」の意であるが、近年の日本では、「屠」の文字が常用漢字ではないことから、と殺やと畜と表記されることも多い。一般的には食肉や皮革等を得るためだが、口蹄疫などの伝染病に感染した家畜を殺処分する場合にもこの語が使用される。
なお、この「屠殺」という言葉は、差別用語と見なされる場合がある。しかし日本語に特に該当する言い換え語が無く、食肉加工業の中に曖昧化されて含まれる傾向が見られる。

類義語には〆る(しめる:一般的に鶏や魚に用いる表現)やおとす、または潰す(つぶす:一般的に牛や豚に用いる表現)がある。

/*/

 その日は、久々の外出だった。
 昔に比べてずいぶんと空気が汚れたと、知り合いは嘆くけれどそれでも外が素晴らしい事に変わりはない。見上げる空の広さと、町並みの美しさと、風が運んでくる木々の匂い。
 これに美味しいものが加わればいうことはないけれど、こればかりは難しい。
 それほど長く生きている訳ではないけれど、私は舌が肥えている方だとよく言われる。それは環境が良かったせいだろうし、周囲が気を遣ってくれたお陰なのだろうと判ってはいる。けれど、質を下げるのはポリシーに反するのだ。
 どうせ食べるならば、ほんの少しでもいいからうんと美味しいものを楽しく食べたい。そう思うのは、言われるほど古い考えなのだろうか?
 せっかくの外出だからこそ、そうしたいと思うのは、間違っている?
 答えはノーだ。正しい。私は正しい。だから外出の時にはちょっとだけ贅沢をする。

 御馳走を文字通り走り回って見つけて、でもわがままを言わずにみんなして分け合う。
 最初は仲の良い子たち数人で始めたけれど、いつの間にか数が増えていった時は小躍りするような気持ちだったものだ――お爺ちゃんたちの方が馬鹿なのだ。
 ほらご覧なさい。みんな、本音では御馳走が食べたいんじゃない。

 大変だったけれど、支度をすれば苦労を忘れる。捌く場所を探すのだけは少し大変だったけど、これも楽しい苦労のひとつだ。みんなわくわくしていたものね。
 そして食べ始めると――これに勝る喜びはない。
 その日は十数人で出掛けたから、御馳走は一口半ほどずつしか分け合えなかった。でもそれで味が変わる訳じゃない。むしろもっともっと良くなる。
 何処の国の言葉だったか――ちょっとずつやればやるほど、味が良くなっていくというのは本当だと、目が覚めるような思いだった。
 最後にはみんな、貪るように食べていたからすっかり汚れてしまった。一番年下の子は本当に食べるのが初めてだったせいなのか口から下がどろどろになってしまって、それがあまりにもおかしくてみんなで笑った。しっかり者なのに、泣きそうな顔をするんだもの。
 ああ、着替えの服をちゃんと持ってきてよかった。
 汚れてしまったら、周りにおかしな顔をされてしまうし、第一不作法だと思われるもの。

 お腹がいっぱいになったら、みんな着替えて休憩。
 その日はたまたま川沿いでやったから、少し歩いた所にある川沿いの野原で休憩した。私は一番年長だから、よく見える場所に移って彼等の様子を見ることにする。
 とはいえ、みんな思い思いだ。
 幸せな気分のままうつらうつらしている子が居るかと思えば、鬼ごっこをしている子もいるし、草を熱心に覗き込んでいる子もいる。お喋りをする子の横では、本を読み始めた子もいた。どれもみんな、本当に幸せそう。
 こういう顔を見ると、幸せな気持ちでいっぱいになる。
 贅沢して、よかった。
 お爺ちゃんたちの言いつけを破ってよかった。
 だって、ご飯が食べたいって思うのは本能だもの。それにしたがって何が悪いの?
 そう思っていた。思っていたせいだろうか―――“あれ”に気付くのが遅れたのは。

 風の臭いに、何かが混じったと思った時、それはやってきた。

 ひゅっ、と空気が鳴った。
 風を切るそれが、何処から聞こえてきたのかは判らない。判らないけれど――それが目標としていたものは、すぐに判った。
 私の左側、土手に座って談笑していた色白の双子たちだ。まだ若い――どちらも今年入ってきたばかりで『命名』もされていなかった女の子。
 やや癖のある赤毛に覆われたそばかすの多い顔。それを支える細くて華奢な首、それが側面から襲いかかるなにかによってへし折られ、――その勢いのまま、宙を舞った。
 三つ編みを靡かせながらぽぉん、と二時間ほど前にやった玉蹴り遊びそのままに飛んでいくふたつの丸いものを、私が目を見開いたまま見つめていたのは、何秒の間だろう。多分、一秒もなかった筈だ。私が立ち上がるのと、遠くの方まで行っていた子たちが一斉に戻ってくるのは同時。ここまで、きっと五秒もかからない。
 でも、それでも遅すぎた。

『■■■■■■■■■■■!』

 下品な怒号が響き渡り、サーチライトが丘を照らした。
 気持ちの良い闇をはぎ取った後にのしのしと歩いてくるのは、美しさの欠片も感じられない黒い服の一団。どれもこれも流行りの無粋な武器を携えているのが、吹き上がる鉄の臭いで判る。
 先頭に立つ男だけが、スーツ姿だ。
 そして、糸人形みたいに細い男の顔には見覚えがあった。
 動き方も何もかも同じ。けれど見知っている頃よりも皺が増えて、眼鏡の枠も変えて。それでもだらりと下げた手からは、何かが垂れ下がっている。
 知っている。それは、鋼鉄の蜘蛛の糸だ。宙を滑ってあらゆる命を絡め取る死神の投げ縄。でもまだ血を吸ってはいない―――
「―――今晩は、お嬢さん。またお会いしましたね」
 覚えているよりも掠れた、けれど訛りの少ない綺麗な語が紡がれる。
 昔の通り。昔のまま。
 だから、私もしゃんと背を伸ばしたまま淑女の風情で応じた。
「今晩は。お久し振り。随分と惨めな姿になったものね、人間」
「半世紀も経てば、誰しもこのようなものですよ。老いこそヒト科の粋というもの――まあ、それについての話はこの際どうでもよろしい」
「では、何? 私たちが一体なにをしたというの?」
「貴方は何もしていないでしょうが」
 笑う表情も皮肉なままだ。
「貴方の『群れ』に用があります――たとえば、先程のあのお二人などもそうですが」
 土手に転がったふたつの影を眺めて、そして、皮肉なままで言葉を紡ぐ。

「協定を破られましたね?」


 ―――協定とは、私たちとヒトが同じ場所で暮らす時に交した約束のようなもの。
 私たちの有り様はヒトには異端だから、折り合いをつけなければならない。だからほんの少し前なら当たり前だった食事も、今の世の中では贅沢になってしまう。
 でも、それを守らなければ私たちは異端として狩られてしまう。
 私たち――吸血の民は本当に脆弱だ。生きているものが持つ生気を、血肉を食むことでしか得られない。どんな力を持っていたとしても、所詮それは、個の持つものだ。
 だから私たちは、協定の下でヒトに寄り添って生きる。
 どれほど理不尽であっても、私たちはヒトがいなければ生きていけない―――


 私は振り向いた。
 風がふわりと吹いて、固まっていた群れの子たちの髪や衣服を揺らす。その中で、一人一人の顔を見つめる。
 怯えたように見てくる子。きょとんとしている子、不安そうに泣く子。それぞれの表情の中で――ひとりだけ、ひきつったように笑った子がいた。
 古株のひとりだと思っていた。
 当世らしくなんとも軽い言動だけれども、頷ける事も言う賢い子だと。でも―――

「―――お爺様たちはどうしろと?」
「特にはありません。貴方に直接に指示を仰ぐようにと。……背後の者たちは、どうぞお気遣いなく」

 振り向かずに問えば、男は昔のように言う。
 一瞬。ほんの一瞬だけ振り向いて、昔のように甘えたくなったけれど、それは許されないのだと思い知る。
 私は影の民で、男はヒトだ。

 一度だけ視線を向ければ、泣き出しそうにあの子は目を見開いた。けれど一緒に泣いてあげることは、私には出来ないのだ。
 私は私の群れに責任がある。

「―――協定破りの罰は、知っている?」

 問い掛ければあの子はフルフルと首を振った。そのまま不安そうに口を開こうとする。
 でも、それは許さない。
 ダンスのステップのように気軽に足を踏み出して、その子の肩を抱き寄せる。

「それほど難しいことはないわ。教育なんてものが貴族のものだった時代に作られたものだから、とても簡単なのよ。血の罪は血で、肉の罪は肉で、命の罪は――命で」

 笑って。
 そうして私は、そのままその子の腕に手を掛け、腕の付け根に手指を差し込んだ。
 ずぶりと音をたてるのを耳にしながら、左の手で反対の肩を押さえ、右手で骨にまとわりついている肉を骨を持ちながらこそげ取る。
 押さえた手の下で泣き叫ぶ声。握った右手の下で、肉がびくびく震えた。たくさん血が出て服が汚れる。周りの子達の視線が怯えを含む――いいえ、これは男の背後のもの?
 それでも、止めない。
 泣いて頼んで止めても、この子はまた繰り返すからだ。
 最後に手首のところにまで垂れ下がった肉を爪で切り取って、お仕置きはおしまい。

「―――好きに使いなさい」
「手ずからの処断、痛み入ります」

 振り向いて差し出すと、男は苦笑を浮かべて、用意していたらしい器にそれを乗せた。

text of END
----------------------------------

少し前に書いた吸血鬼もののリファインというか、別設定世界構築版というか。
吸血鬼美少女+慇懃無礼人間男性とかわりと好きです
関連記事
別窓 | 未分類 | コメント:0 | トラックバック:0 | ↑top
<<【SS】三梨律子の憂鬱 | 乃磨建月の殴り書き倉庫 | 【突発】二月の風景>>
この記事へのコメント
↑top | under↓
コメントの投稿














管理者だけに閲覧

この記事のトラックバック
トラックバックURL

list FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら
↑top | under↓
| 乃磨建月の殴り書き倉庫 |