2012年07月08日(日) 16:09
◆OPENING
Q.貴方の名前と職業、年齢、そして現在の状況を説明してください。 A.ノーマ・リイチ。休学中の大学生。24歳。長期滞在先の下見に来てみたら、街がゾンビの群れに囲まれてた。なんだこりゃ。 /*/ この異変の、最初の兆候が何だったのか、実はよく思い出せない。 はっきりと覚えているのは、臭いだった。 いわゆる生ゴミが一日以上経った時の、或いは夏の朝に繁華街の裏道を辿った時の、どうしようもなく生理的な嫌悪と共に吐き気をもよおさせる、あの臭い。それが鼻についた。 時刻はまだ早かった。さわやかな朝。掃除屋が来た様子はないし、酔っぱらいが居る様子もない。 何処から来るのか分からず、顔を顰めて鼻を摘んで、一体何でしょうね、と横にいた老紳士と会話を交わしさえした――今から考えれば、ひどく暢気なことをしていたものだと思う。そうしたら、何人かは死なずに済んだ筈だ。 やがて通りの外れに現れた「臭いの元」は、ひとつの影のように見えた。 太った男。ぼろぼろのナリをしていた(ように見えた)ので、おそらくは浮浪者だろうと思い――よたよたと歩いてくるそれに、警官らしい男がふたり、駆け寄っていくのを見て、安堵した。しかるべき所に連れて行かれるに違いない。そう思った筈が、 悲鳴が上がった。 ――もう一度向けた視線の先で、太った男が警官の一人に「食いつい」ていた。 悲鳴が連鎖し、パニックが広がった。血の臭いも。「喰われ」ていく同僚に、いや、喰っている側にか――もう一人の男が発砲し、そして―― 全く違う場所で悲鳴が上がった。 振り向いた先に、解け崩れた顔をした「なにか」が居た。 ……後はお決まりのパニックだ。 何処をどうやって逃げたのかは、実は記憶にない。頭の中にあるのは切れ切れになった断片だけだ。誰かに突き飛ばされた記憶があり、突き飛ばした記憶があった。最初のそれと同じような悲鳴を何度も聞いた。助けを求める声に振り返らなかった。 気が付いたら知らない――見覚えのない街角に居た。奇跡的になんの怪我もなかった。だが、それだけだ。 正に「俺が何をした」である。何も、していない。ただ逃げただけだ。逃げて生きようとしただけ。 ……いや、今ここで生き残った人間みんなそうだろうけど。 (とはいえ、カミサマに恨み辛みをぶつけても仕方がないか) 軽く気楽に口に出すのは現実逃避ゆえである。というかこのままパッタリ倒れて寝て起きたら事態が打開されていないだろうか、などと危険なことを考えている自分が居る。 (ああ、――でも死ぬのは嫌だな。痛いのも、二度は御免だ) 頭をがりがりと掻くのは昔からの癖。怪我はないが、梳き入れた指が引っかかる。髪の毛が何かで貼り付いているようだ。それが何なのかといえば、 ――――。――――。――――――――。 ……あまり深く考えないことにした。 ノーマ・リイチ:サイバイバル、スタート。
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