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店頭のワープロのように、好き勝手書いて好き勝手放置しておく気楽な場。 踊り子さんには手を触れないようお願いします
【ロボ系】邂逅の黄昏
2007年06月16日(土) 17:36
「帰還の朝」の、続きといえば続き。



《貴方を、探していたのです。――この四年の間、ずっと》

 そう言ったきり、声は沈黙した。
 淑女の尊号で呼ばれるに相応しいであろう、慎ましやかな――けれど、はっきりと耳に届く発音だった。声は高く、鈴の音を思わせる涼しげで、けれど耳障りにはけしてならない心地良さを同時に持ち合わせている。
 けれど、それを口にしているものの正体を、既に男は知っていた。
“Athu Bodua”
 赤銅色の髪を持つ、ヒトガタの何か。
 今ある全ての「人形」――戦術型人型兵機群すべての原型として作られたと言われる原型の一。精巧すぎる絡繰り仕掛けの美女。
 数年前に行方不明となった天才科学者と共に消えたとされるそれは、今や紛争によって国ごと失われたと言われる中央アジアの某国を最後に目撃情報すらも途絶えさせたとされている。以来、地続きの紛争地帯で見たという噂だけが幽霊のようにあちこちで漏れ聞こえていた。

 ―――曰く、死んだ主を求めて彷徨っている。
 ―――曰く、人間を呪い、誰彼構わずに襲い続けている。
 ―――曰く、自分の「弟妹」である人型を操る傭兵の前に現れて手助けする。

 それはよくある戦場の御伽噺だ。判りやすい、典型の、だがそれ故にありえないと誰もが一笑に付して、けれど胸に刻み込まれる類の噂話だ。
 理解不能だった筈の何か。それが――自分の為だったのだと言っている。
 訳が判らない。理屈が読み取れない。
 これは――見ず知らずの機械である筈なのに。

「どういうことだ」
《父は、言いました》

 混乱したまま、呟くように漏らした言葉に、しかし律儀に女は応えた。

《私の『花婿』を捜せと。私に相応しく、戦場を駆け抜けることのできる灰色の男を見出さねばならぬ、と》
「それが――オレだと?」
《肯定です。ミスタ・(アッシュ)。貴方であれば、私はこの身を委ねる事が出来ます。この私と――私のみが纏うことを許されている、父の「遺産」(レガシィ)を譲り渡せる》
「何故そう断言できる?」
《私は貴方のかつての名前を知っています――ミスタ・A。いいえ、グレイハウンド03》
 びくり、と。
 自分の頬肉が揺れるのを、男は自覚した。息が詰まるのを堪えて、女を見る――睨まないようにするのは骨が折れた。この機械に、そんなことをしても無意味だ。
「―――猟犬は皆死んだ」
《いいえ。貴方がいます。最後の一人である、貴方が》

《あれは、普及型(サードタイプ)には使いこなせない。既に原型(ファースト)試験型(セカンダリ)の大半が失われた現状で『私』を動かせる者は貴方しかおりません》
 無表情の視線がこちらを見る。

《『私』は、完全な状態となる為に貴方の協力を要請します》
「断る」
《何故か、理由を教えてください》
「―――犬は死んだ」

 噛み締めるように呟く。

「お前がどれほど望もうとも、俺はもう人形には触れない」
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